Re-FRAME

本や映画、歴史、旅、社会のありようを感じたままに。

ウクライナ侵攻の終わり方

 ロシアによるウクライナ侵攻がいつ終わるのかは、自前の諜報機関がないのでわからない。ただ終戦となる条件、終戦への工程・形は私なりにイメージしている。そのイメージを形作ったのはBBC放送を始め、英国情報機関「政府通信本部GCHQ)」の公式アカウントTwitter、各国代表スポークスマンによる公式声明など誰でも入手できるインテリジェンスリソースだ。そこに人類のこれまでの歴史、特にロシアの近現代史観を織り交ぜ、このブログを書き進めていきたい。

 

一. ウクライナ侵攻の目的、プーチンのレッドライン

 (このブログは2023年1月7日に書いた)

 ロシアが侵攻に至った理由を踏まえずに終戦の形を予測するのは精緻ではないと考え、簡単に書いておく。

 プーチンのレッドラインはウクライナがロシアの影響圏内を離脱し、西側諸国に与すること、具体的にはNATOに加盟することだった。加盟阻止の理由はNATO加盟国がロシアの隣国に誕生するという軍事的脅威だけではない。プーチンウクライナに対する恩讐の情念が多大に彼を突き動かしている。

 今一度、簡単ではあるがロシアとウクライナの歴史をおさえておきたい。両国は歴史上切っても切り離せられない兄弟国と言ってよく、9世紀にウクライナの地に誕生したキエフ大公国が両国の祖となっている。その後、モンゴル帝国の侵攻、ロシア革命ソビエト連邦誕生とその崩壊に至るまで、衝突と調停、同盟関係を繰り返しながら2か国間は歴史を積み重ねていく。ただいずれの時代もウクライナはロシアの従属国という関係を、武力によって強いられてきた歴史を持つ。

 とはいえ、これらウクライナとの歴史の遷移がプーチンの脳や肌身にどれだけ刻まれているのか、私は懐疑的に思っている。ただ言えることはプーチンにとってソビエト連邦の崩壊は耐え難い歴史であり、あってはならないことだった。ロシアがかつてのソ連のように東欧諸国を束ね、西側と対峙する力を持つこと、ロシアによる新たな歴史を創ることをプーチンは自らの使命と課していた。そんなプーチンにとって、ウクライナNATOに加盟することは彼の使命を果たせないばかりか、いや、もっと大きな理想、ロシアという国の繁栄を二度と築くことができないことを意味していた。NATO加盟国になったウクライナは実質的に核保有国となり、ロシアは二度と手が出せないからだ。

 かつてのロシアの従属国が西側へと舵を切るのを、手をこまねいて見逃すわけにはいかない。それがそもそものプーチン大義だった。そして、それにお墨付きを与えたのが、2014年のロシアのウクライナクリミア半島への侵攻とその後の併合統治。加えてアメリカのバイデン大統領は「ロシアが侵攻しても、アメリカは軍事介入しない」と何度も声明を出したこと。ウクライナ国境沿いに続々とロシア軍が集結し軍事的緊張が高まる中、さらには侵攻直前に至ってもなお、バイデンの発言は変わらなかった。核戦争を回避しなければならないアメリカの懸念は充分に理解できるが、これではロシアの侵攻を事実上、容認したことになるのではないか。プーチンはほくそ笑んだに違いない。

 後日談になるがロシアによる軍事侵攻後、スウェーデンフィンランドNATO加盟希望を表明した。スウェーデンフィンランドはロシアの隣国・近隣国であり軍事的緊張を作らないために長く中立を保っていたが、ウクライナの惨状を自国の将来の安全保障と重ね合わせた上での決断だ。

 注目すべきはプーチンの「いかなる脅威にも相応に対応する」と断りながら、「加盟したければすればいい、気にしない」とした発言だ。2022年6月の記者会見上での発言なので、当初の電撃短期決戦の目論見が外れ、予断を許さない戦況下で戦力的にも精神的にも北欧にまで対応する余力がない事情がこの発言から垣間見られる。

 だが発言の真意は「余力がないのが9割」で、後の1割には「ウクライナがロシアと袂をわかってロシア復活を阻むのとは訳が違う」という情感が含まれているのでは、と筆者は捉えている。

 

ロシアの首都モスクワ、赤の広場。侵攻当初、モスクワ各地でロシア人による反戦デモがあって筆者は驚いた。が、その後しばらくしてデモのニュースは聞かなくなった。 Photo 写真AC https://www.photo-ac.com/ Special thanks to masa2さん

 

二.ウクライナ侵攻の始まり

(このブログ「二」は2023年1月29日に書いた)

 ウクライナがロシアから決別することを阻むために始まった侵攻だが、侵攻の端緒となったのはウクライナ東部のドネツク州・ルガンスク州の新ロシア派(両州の新ロシア派は2014年に一方的にウクライナからの独立を宣言。2023年現在、ロシア、シリア、北朝鮮以外からは国家承認されていない)からの要請だった。両州の新ロシア派の保護とウクライナの非軍事化・非ナチ化を目的にした「特別軍事作戦」とロシア側はこの侵攻を呼称した。「ウクライナの占領を目的としない」ともプーチンはロシア国営テレビで演説した。

 この時点でウクライナNATO加盟は阻止できている。なぜならNATO加盟には「紛争当事国ではないこと」という条項があるからだ。紛争当事国が加盟すれば、勢い「NATO」対「相手国」となるため、NATOとしても編入するわけにはいかない。2014年のウクライナクリミア半島への侵攻がそうだったように、あるいはこの東部2州の占領をもってウクライナNATO諸国に楔を打つのがこの「特別軍事作戦」の全容かと、私を理解した。

 しかしプーチンの苛烈さは私の理解の範疇を超えていた。侵攻当初、首都キーウ陥落を目指すロシア軍の侵攻を見て、ウクライナという国家全土の“実質的”占領が目的だと理解した。国家間同士の戦争ではない「特別軍事作戦」とプーチンは断っておきながら、ウクライナ軍の降伏もしくは武装解除、あるいは司令部である現ウクライナ政府の解体を目指すロシアの意思・軍事行動に世界は震撼した。

 プーチンの立場からすれば、東部4州の占領後に外交交渉等でウクライナおよびNATOと対峙する選択肢はなかった。時間が経過すればするほど経済制裁等で苦境に立たされるのは明らかだ。つまり外交ではなく、“純”軍事力でウクライナを併合すれば核を持つロシアに他国は口出しできないとプーチンは考えたのだろう。事実クリミア半島が悪しき前例となっている。そして、現在のアメリカにはロシアと事を構える余裕も気概もないと読んだのだ。

 さらに侵攻への後押しとなったのが軍上層部や情報機関からのインテリジェンスだ。侵攻から短期間でキーウは陥落でき、現政権の解体、そして各地に残ったウクライナ軍の掃討がロシア側のシナリオだったのだろう。さすがに侵攻失敗となれば、どれほど権力をほしいままにしているプーチンでも自身の政治生命はおろか、ロシアという国家の破綻すら招きかねないことは覚悟しているはずだ。必ずや成功しなければならない侵攻で、成功できる状況が揃っていたからこそ始めたはず。しかし、この読みは全くの誤りだったことは今の戦況がつぶさに物語っている。

 繰り返すがロシアがウクライナの軍と政府の解体を作戦目標とした時点で、この侵攻は「戦争」になった。戦争となれば、その終わり方は無数にあるわけではなく、いくつかのパターンに集約できる。次章ではそのパターンを一つひとつ見ていきたい。

 

三.「戦争」の終わり方 ①当事国どちらかの降伏

(このブログ「三」は2023年5月1日に書いた)

 戦争を終結させるには3つの形がある。

 ①当事国どちらかの降伏

 ②当事国どちらかの全滅(あるいは双方の全滅)

 ③当事国以外の国による和平調停の受諾

 

 この章では①について著述していく。まずウクライナが降伏する可能性について(①-Aと分類する)。

 ウクライナがロシアの占領下になることを絶対阻止するため、アメリカをはじめとする西側諸国は武器・兵器・弾薬・インテリジェンスの支援を惜しまない。この侵攻におけるロシアの勝利は、その後の国際秩序の観点からも全く受け入れられない歴史を生むことになる。西側は兵力(人員)を提供できない以上、武器・弾薬を提供することでなんとか事態を打開したいと考えている。つまり、ウクライナの武器・弾薬そして資金力はやや大雑把に言えばNATOのそれと同等と言っていい。ただし、今後5年以上にわたって戦争が長期化する、あるいはウクライナの敗北が徹底的となるようなことがあれば、各国の支援疲れ、資金力不足による支援の断念という可能性も生まれてくる。

 国際世論を味方につけて武器・弾薬の補給には筋道が立っているものの、兵力には限りがある。加えて兵力の観点から言えばロシア軍に対して圧倒的に不利である。そのため、ウ軍としてはロ軍に対して圧倒的優位にある最新兵器、最新情報を駆使した作戦で、「短期間」でロシア占領下にあるウクライナ東部とクリミア半島の奪還を図らなければならない。23年5月1日時点でよくニュースになっているウクライナ軍の「大規模な反転攻勢」とはスピードも大きな要素となっているのだろう。

 以上、現在の戦況と国際世論、世界各国によるウクライナ支援、そして次に挙げるロシアの戦力・戦況を分析すると、①-A ウクライナが降伏する可能性は低いと私は見ている。そもそもブチャを始めとするロシアによる惨状を目の当たりにしたウクライナは徹底抗戦を掲げるしか道はないのではないか。

 次にロシアが降伏する可能性について(①-B)。ロシアが降伏することは、対ウクライナと比較した国家規模からしてありえない。単純にウクライナはロシアという広大な領土を占領することは不可能だからだ。しかしロシアの降伏ではなく、「クリミア半島ウクライナ東部からの撤退」または「特別軍事作戦の終了宣言(ロシアがウクライナ側との和平交渉に入る)」の可能性については起こりうるかもしれないのではないかと考えている。

 先に記したNATOの武器・弾薬を手にしているウ軍に対して、ロ軍の武器・弾薬の枯渇は深刻だ。そしてそれを裏付けるニュースは枚挙に暇がない。ウ軍との軍事力差が明確となり、これ以上の占領下拡大を目指した侵攻を断念せざるを得ないこと、さらには現占領下のクリミア半島と東部4州を維持できない戦況に陥れば、撤退も余儀なくされる。

 クリミア半島と東部からの撤退は、軍事的敗走を意味する。それはロシア側からすれば深刻な決断に違いないが、“侵攻する国”である以上、侵攻以前の状態に戻るわけなので(クリミア半島は失うことになるのだが)、“侵攻されている”ウクライナ側の敗走・降伏を決断することと比較するならハードルは格段に低いと見ていいだろう。撤退に際してロシアスポークスマンがなりふり構わぬ苦しい大義名分を並べるであろうことも容易に想像できる。

 いよいよ前線の維持、現占領下の維持が難しい戦況となればクリミアと東部4州を占領下に治めながらウクライナとの和平交渉を呼びかけるという手段もあるだろう。この場合、戦況有利なウクライナ側が応じることは考えられず、ロシアは「平和を破ったのはウクライナ側である」という非難の声明を出せる。あるいは和平交渉の呼びかけに対して中国等を念頭に第三国が調停に乗り出し、事態打開に向かう可能性もなくはない。いずれにしろ、ロシア側からの和平交渉の打診は時間稼ぎであり、軍事力では敗北したこの侵攻を外交面で取り繕い、何とかクリミアと東部4州を死守しようとする政策の一環となるのではないか。

 占領を維持している時期で和平交渉を打診するのではなく、ウクライナからの撤退後による和平交渉というロシア側から見て全くの完敗というシナリオも考えなくてはならない。それは、プーチン大統領がその職を辞するときだ。2024年3月に行れるロシア大統領選挙での敗北、あるいは選挙に勝利したとしても選挙後の反戦派の動き、ロシア国内世論のうねり、そしてプーチン自身の健康不安説等も慎重に推移を見極める必要がある。次のロシア大統領選挙が公正に行れることはないだろう。しかしながら選挙戦でプーチンはこのウクライナ侵攻に関して一定の成果とそのPRをしなければならない。この大統領選挙によってロシア国民が現状をどう把握し、この先どうしたいのかを考える契機となり、その刺激が反戦へと大きく傾く可能性も考えられる。世論の声を力で抑える政府に対して、誰が反戦派の受け皿として名乗ることができるのか。西側諸国の諜報網は固唾を呑んでこの侵攻の戦局の情報収集にあたるのと同等以上に、プーチンの次を担うキーパーソンのリストアップと接触、そして支援に注力しているはずだ。

 

四.「戦争」の終わり方 ②当事国どちらかの全滅(あるいは双方の全滅)

 (このブログ「四」は2023年5月2日に書いた)

 この章では端的に、ウクライナ侵攻における核使用の可能性について著述したい。

 先に述べたロシアが「現状以上の侵攻の断念」および「クリミア半島と東部4州からの撤退」せざるを得ない状況下に陥ったときこそ、核使用の危険性は最大限高まると見ている。広島・長崎への投下以降、数ある危機の中でも一度として使用されることがなかった核兵器を使用する正当性や理論などあるはずがない。しかし、実態不明のネオナチなぞを拵えて侵攻を開始したロシアなら、あらゆる詭弁を取り繕って核使用の正当性を訴えるであろう。

 ロシアは核使用に関して制限を設けている。第一に「核の先制攻撃を受けた」とき。第二に「ロシアの核心的な利益が脅かされた」ときだ。この「核心的利益」にクリミア半島と東部4州への攻撃が含まれるかどうかが世界の耳目を集めている。また、ウクライナによるロシア本土への攻撃もこれにあたる可能性がある。アメリカ・NATO諸国はロシアからの防衛戦争にはできる限りの支援を惜しまないが、それ以上の戦闘には一線を引いている。ウクライナへの戦闘機や長距離ミサイルの支援には慎重な姿勢を崩していない。23年4月24日ワシントン・ポスト電子版によれば、ウクライナはモスクワ攻撃を計画をしていたが、アメリカの制止によって断念したことが米文書機密情報流出によって明らかになっている。

 人が想像しうることではないのだが、使用するのであれば場所は首都キーウ以外のどこかで、使用するのは放射能をまき散らす「汚い爆弾」と呼ばれる、被害が局地的な戦術核だと思われる。あるいは核兵器と同等の扱いでウクライナ領内の原発への攻撃も考えられる。使用後、ウクライナ・ロシア側双方またはどちらかから停戦を呼びかける流れを作りたいのではないか。

 核使用のリスクは戦況次第であることに加え、「ロシアへの核報復はない」という確信がなければ、さすがに核使用は断念せざるを得ない。アメリカは断固たるメッセージを出し続けなければ核使用のハードルを下げてしまうことになるだろう。

2024年にはアメリカでも大統領選挙が行われる。ウクライナへの支援の是非も選挙の1つの争点になるだろう。 Photo 写真AC https://www.photo-ac.com/ Special thanks to makoto.hさん

 

五.「戦争」の終わり方 ③当事国以外の国による和平調停の受諾

(このブログ「五」は2023年5月3日に書いた)

 当事国以外で和平調停に影響力のある第三国とは、中国を指す。習近平国家主席は23年3月にプーチン大統領と直接会談、4月にはゼレンスキー大統領と電話会談を行っている。その意図は何なのか。

 習近平が目指す中国の未来は、経済的にも軍事的にも国際情勢においても世界No.1としての地位を占めること、アメリカに代わって世界をリードすることだ。それだけに現在のウクライナ侵攻において、これを収拾することができれば中国の存在感・影響力を誇示することができるのであろう。ただこれは“表向き”の理由だ。

 もう一つ“裏側”の理由には、台湾問題が存在している。中国による台湾統一「一つの中国」問題は「中国の核心的利益中の核心だ」と習近平は明言している。その中国共産党の悲願ともいうべき中台問題の解決、つまりは中国による軍事侵攻を図るのに現在のウクライナ侵攻は継続してほしいというのが本音だろう。なぜなら、ウクライナ侵攻“後”の世界リスクとして、否応なく中台海峡に注目が集まるのは中国にとって望ましい状況ではない。加えて軍事面においてもウクライナへの軍事援助が実施されている最中、中台武力紛争が発生した際にアメリカはウクライナと台湾環境で“両面作戦”をとらなければならず、中国にとって有利な状況下と言える。ロシアの消耗、ウクライナへの西側諸国による軍事支援は世界のミリタリーバランスに大きな変化をもたらし、いずれも台湾統一を目指す中国にとって追い風となっている。

 その中国が現段階でウクライナ・ロシア両国と接触するのは、両国のリアルな戦力分析・戦況情報の入手と和平交渉を促しながら停戦・侵攻終了に至るまでの「期間」をコントロールしたいのではないか。つまりは時間稼ぎだ。台湾侵攻を目論む中国にとって、侵攻への準備が整う前にウクライナ侵攻が終わってしまうと都合が悪いというわけだ。

 台湾侵攻への臨戦態勢構築を目論む中国は今できる限りの時間がほしいはずだ。その点で、中国によるウクライナ侵攻の和平調停は期待できない。中国政府の考えとしてウクライナ侵攻終結間際、あるいは終結直後が台湾侵攻へのタイミングの一つであることは間違いない。そして、中台紛争の当事国となった時点の中国が果たしてウクライナ侵攻の和平調停に本気に乗り出すのだろうか。ロシア同様に、力による現状変更を試みる中国に対して、世界はまとまるのだろうか。その点においても、中国による和平調停は難しいと私は見ている。

 余談だが、日本人である私はウクライナ侵攻の早期終結を心から望んでいるし、中台紛争など全く望んではいない。ただ歴史と時事ニュースに触れ、外交・軍事の素人ながらこの問題に関心ある者の一人としてここまでのシナリオを予測してみた。であるなら、このシナリオ通りにならないように世界の指導者、影響力ある立場ある人たちが情勢を見極め、世界平和に向けて尽力してほしいと切に願ってやまない。私にできることといえば、選挙権を行使することとこうしてblogやSNSで考えていることを発信することぐらいなのだから。

 

習近平憲法を改正して23年3月に国家主席3期目を迎えた。任期は5年。任期中に「中国の核心的利益の中での最重要項目」とする中台問題解決に動くとみられる。 Photo 写真AC https://www.photo-ac.com/ Special thanks to しょんまおさん

 

六.「いつ」戦争は終わるのか

(このブログ「六」は2023年5月7日に書いた)

 戦争継続能力は戦争当事国にとってトップシークレットであり、当事国自ら公表することはあり得ない。そのため、第三国・第三者の身としては予測・分析するしか手がない。では、何をもって分析することができるのか。両国の公式発表はもちろんのこと、両国が採る戦術、そして第三国の動きを注視すれば見えてくる。

 侵攻後1年を経過して戦争の長期化を危惧する論評・分析が多いが、私は短くて後1年、長くても2~3年以内に終わるのではないかと見ている。ただし、ロシアが核を使用しなければという前提だが。

 

<理由①>ロシアの兵力・戦力不足

 武器・弾薬が枯渇し、国家総動員の準備を着々と進め、予備役30万人の兵力補充も既に行い、23年4月からはさらなる増員(契約軍人)も始まっている。軍事面において戦争継続能力ぎりぎりのところで間に合わせていることは明白だ。

 私はその点でロシア民間軍事会社ワグネルとの共同作戦の推移も一つの指標となると考え、注視していたのだが23年5月10日以降に激戦地バフムトからの撤退を表明した。武器弾薬が不足しているワグネルからロシア政府に補充を求める最後通牒なのだろう。あるいはロシアが慌てて補給を約束することも今後ありえるが、この表明からわかることは「前線への武器の補充が十分でない」こと、「ロシアはワグネルをコントロールできていない」ことだ。

<理由②>ロシアの兵力・戦力不足に起因するロシア社会のひっ迫

 経済・生産力を軍需に傾け、さらなる予備役を徴兵することはロシア国民の不満を高める。いかにプロバガンダや世論操作で国の統一を図ろうとしても、抑えきれるものではないと歴史が教えている。反プーチンの声がロシア国内のどこから、何がきっかけで、誰から発せられるのかは今後注目していいだろう。

<理由③>中台問題に関する中国・アメリカ・日本の積極的動向

 「五」で記述した中国の戦略として、ウクライナ侵攻中に台湾への侵攻を中国は目論んでいると私は見立てている。ウクライナ・ロシアの戦闘の帰結と時期について独自に分析を進める中国とアメリカ。米中間での戦争は何とか回避したい両国だが、お互い譲れない台湾という核心的利益に関する両国の動きから戦争終結時期を予測できるのではないか。

 習近平の和平調停への動き、台湾防空識別圏内に侵入を繰り返す中国機、アメリカの台湾防衛に関する声明、日本の軍事力増強、日韓首脳の緊密外交への舵取り、これらの事柄はウクライナ侵攻と地続きでつながっているのではないか。中台問題を注視することはウクライナ侵攻の現在の戦況を予測させる一つの指標となりえる。

 

 戦争が今後短期間で終わる理由を大きく3つ記述した。ロシアの戦力不足について付け加えるなら23年5月3日のクレムリンへのドローンによる攻撃もその証左となる。攻撃を行ったのはウクライナとするなら大規模反転攻勢を仕掛ける直前のタイミング的にも、映像でみた限りのあの火力で何がしたかったのかという攻撃作戦の意図的にも無理があると思われる。ロシアによる自作自演か、反戦派による攻撃と私は見ている。ロシアによる自作自演と仮定するなら、そもそも軍事力において戦況優勢であれば、このような“搦め手”を使う必要はない。戦況不利な状況を打開するために今後も様々なことが起こだろう。そしてそこには“ロシア流”の解釈が付与されることになる。原発核兵器に関する威嚇も、戦局が不利になればなるほど行われるリスクが増えていくだろう。

 

七.ウクライナ侵攻の終わり方(まとめ)

 ウクライナNATO加盟阻止を目的として始まった侵攻だが、ロシアがウクライナの首都キーウ陥落(現政府解体)を目指したこと、占領下の併合を誓言したことによってこの侵攻は純軍事的な解決を図ることには終わらない事態となった。そして遺憾ながら大局が明らかになるまでは戦闘は続くだろう。

 私は戦力・戦局的にウクライナが侵攻を阻止すると見立てているが、何度かこのブログで触れているようにいよいよロシアの撤退が決定的となりそうになったとき、核使用のリスクや中台問題の次のフェーズへの移行など様々な事態が発生する可能性が高くなる。

 中国が中台問題に絡めてウクライナ侵攻に関与する一方で、NATO諸国は兵器支援という形で直接的に侵攻に関与している。西側は何とかプーチンの野望を挫かなければと一致している。各国の利害渦巻くこのウクライナの地で戦略を一手誤れば世界大戦へとつながることも忘れてはならない。サラエボで発射された一発の弾丸が、後の第一次世界大戦につながったこと、その世界大戦が次の第二次大戦を生んだことを歴史に学ぶなら、この想像は決して大げさではない。

 

 私は決して世界の破滅を望んでいない。一人でも多くの人命が助かることを望んやまない。だからこそウクライナ侵攻を対岸の火事として見過ごすことはできない。毎日日々変化する戦況に心痛めながら、この時代を生きた一人の人間としてウクライナ侵攻のこれまでとこれからを冷静に秩序立ててまとめたかった。考えたかった。

 非力な私がこのブログを書こうと書かまいと、将来への見立てが合っていようとなかろうと戦況に何一つ影響はないだろう。ただウクライナで何が行われているか知りたい人、世界情勢がこれからどうなるのか知りたい人の一つの指標になれば幸いだ。もちろん、非難・批判・反論もあるだろうし、それもかまわない。ウクライナのことを考え、自分の生活にどう影響するのか考え、ひいては世界と自分とのつながりを考えるきっかけに、このblogが役に立てれば幸いだ。

 

(2023年5月7日、脱稿)