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会社会議のあり方に悩んで、裁判を傍聴した

 私は会社の管理職として会議に出ることも多いのだが、うちの会社が会議下手過ぎて出席すると疲労感とストレスが半端ない。

 まず、①議題が曖昧、ひどいと決まっていない。だから、②議題がころころ変わる。同じ意味で議題の深堀ができない。違う話が始まってしまう。そして、当然の帰結として③無駄に時間が長い。

 そんな理由で悩んでいた私は、ビジネスハウツーの類の「会議の進め方」なる本でも読めばいいのだが、裁判を傍聴することで何かのヒントを得ようと思った。我ながら胡乱だと思いながらも、人の人生を決定させる究極形態の会議が裁判ではないかと考えたからだ。

 いわゆる「法廷もの」小説・映画・ドラマが好きで一度傍聴してみたかった理由もある。その時読んでいた佐々木譲著の『沈黙法廷』からも大いに刺激を受けた。そんな私の長年の好奇心と、日々のストレスの蓄積が化学反応を起こして、私を裁判所に向かわした。

 

 裁判所に行くと1Fフロアにその日の開廷予定タイムスケジュールと何番の法廷(部屋)で行っているかが表になっている。ざっと目を通して階を上がると、高齢の男性二人がメモ帳とペンを持ちながら話をしている。「『沈黙法廷』にも出てきた傍聴マニアの人だ」と傍聴素人の私は驚いた。

 各法廷の扉には何の事件の審理を行っているかが書かれている。さすがに殺人事件は素人には重すぎるので「公文書偽造罪」「詐欺」でなんやらかんやらと書かれてよく理解できなかった法廷の扉を開けて、傍聴席に座った。

 

 裁判を聞いているうちに事件のあらましが大体わかった。被告人はOA機器商社の元営業でプリンターやFAX、PC等を大量に倉庫に搬入した。その倉庫を借りるときか何かのときの契約書を偽造した罪だと記憶している(2~3年前の話なので詳細は覚えていない)。そしてそれらの機器は特殊詐欺のDM等の製造に使用されるためのものだった。

 弁護士の質問では被告人は特殊詐欺に利用されることを全く知らずに巻き込まれたことを強調していた。そして事実を知ってからは周囲から脅され、また自らも犯罪に加担していたことが怖くなり、どうすることもできなかったと主張する。私は怖い話だなと、被告人に心から同情した。

 次、検察官からの尋問。検察官が開口一番「で、あなたはこの仕事でいくら報酬をもらっていましたか?」と。私はハッと目が覚める思いだった。

 

 裁判を傍聴し終わって、会社の会議に活かすのは以下の点だ。いや、裁判を傍聴する前からわかりきっていたことだが、まず①『議題の確定』。裁判では「公判前整理手続」といって「争点及び証拠の整理」が行われる。罪状の認否を争うのか、刑罰の内容を争うのかが事前に決められているので、争点を絞って裁判を進められる(当然のことだが)。

 ②『裁判長の権限』が会社の会議にも必要だと思った。裁判ではなく会議なので、「議長」や「決裁者」と言うべきか。裁判では全員が裁判長に向かって話をしていると感じた。そして裁判長の絶対的な権限。論旨がずれたり、あるいは争点に関係ない話が始まると裁判長が注意し、制止した。また法廷を使用する時間が決まっているらしく、タイムキーパー的な役割も裁判長が担っていた。「時間があまりないので検察官は手短にお願いします」みたいなことも言っていた。促された検察官は「では急いで言いますが、」と裁判長に従順だ。考えてみれば、決裁者の社長のいないところで会議を行い、決まった事項を社長に伝えるとひっくり変えされることもよくあったなと反省。本当は社長が会議を仕切るのが最も効率的なのだろうが、立場的に違和感があるので最低でもその場にはいることは求めたいところだ。

 あと、参考になったのは「情状に関する立証」。ビジネス世界では成果を挙げられなかったり、ミスなどを起こしたりすると問答無用でその原因を追及され、弁解の余地はないが(私個人の見解だが)、裁判では「どうしておこしてしまったのか」「どれほど反省しているか」「再犯することはないか」などを考慮する「情状」という手続きが組まれている。社会には確かにあってはならないミスや怠慢があるが、それ以下の失敗については当事者の話を聞く機会は設けられるべきではないかと感じた。

 

 後日談だが会議では私は端役なので裁判長にはなれないが、参加者には事前に声をかけることでせめて議題や争点をまとめてから会議が進められるように奮闘する日々である。

裁判の審理が時間きっかりに終わった後、「次は判決ですが」と裁判長が言い、弁護士と検察官が個々に自分のスケジュール表を開いてスケジュール調整をしているのが面白かった。 「〇日はどうですか?」
「裁判長、すいません。その日は横浜地裁で別の裁判が入ってます」みたいなやり取りで。
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